
アメリカのピアノ教材の歴史は、19世紀のヨーロッパ式伝統を基盤としながら、独自の発展を遂げてきました。
19世紀、ピアノの練習に使用されていたのはツェルニーやクレメンティといったヨーロッパの教材が主流だったと言われています(諸説ありますのでご了承ください)
その頃アメリカはウィリアム・S・B・マシューズの「Standard Graded Course of Studies for the Pianoforte」など、段階的な学習を重視した教材が登場しました。
ウィリアム・S・B・マシューズの「Standard Graded Course of Studies for the Pianoforte」は、19世紀後半にアメリカで出版されたピアノ教材で、ピアノを学ぶ生徒が無理なくステップアップできるよう、段階的に構成されているのが特徴です。
今の「グレード制」にも通じるカリキュラムが取り入れられ、初級から上級まで順を追って学べるよう工夫されています。スケールや練習曲、レパートリー曲をバランスよく組み合わせ、テクニックだけでなく音楽の表現力もしっかり身につけられる内容になっています。
また、ツェルニーやクレメンティといったヨーロッパの教材の影響も見られます。19世紀のアメリカでは、ピアノを学ぶ人が家庭や学校で増えていたこともあり、この教材はより多くの生徒が楽しく、効率よく学べるよう考えられたと言われています。
この教材はアメリカのピアノ教育に大きな影響を与え、その後のジョン・トンプソン(米国ギルド・ピアノ検定試験の第1回審査員)やバスティンといったピアノ教材にもつながる考え方を生み出しました。(故ジェーン・バスティンは米国ピアノ指導者団体ACM公認指導者でした)
「Standard Graded Course of Studies for the Pianoforte」今ではあまり使われることはありませんが、アメリカのピアノの教育の歴史を知るうえで、とても大切な教材のひとつだと思います。
さて、20世紀に入ると、ジョン・トンプソンの「Modern Course for the Piano」やアルフレッド・メソッドなど、子ども向けに体系化された教材が広まり、1929年にはアメリカン・カレッジ・オブ・ミュージシャンズ(ACM)米国ギルド・ピアノ検定の制度が確立され、段階的なピアノ教育がより整備されました。
米国ピアノ指導者団体ACM主催の、米国ギルド・ピアノ検定試験、第1回目の審査員はジョン・トンプソンでした。トンプソンは子供たちの演奏を 深い音楽的理解と豊かな専門知識をもって演奏を聴いたとACMの文献には記されています。
1950年代以降は、バスティン・メソッドのようにイラストを活用し、より親しみやすい教材が開発される一方で、日本のスズキメソッドもアメリカで導入され、耳で学ぶアプローチが注目を集めました。
先ほど少しお話ししましたが、バスティン(故ジェーン・バスティン先生)は、アメリカのピアノ指導者団体ACMの公認指導者として、長年ご自身の生徒さんをギルド・ピアノ検定試験に参加させていました。そして、アメリカ本部とも親しい関係を築いていたという、上席の方から聞いた昔のエピソードがあります。そして、ここ10年ほどの間に日本でも特に有名になったのが「My First Piano Adventure」ですが、その元となる「Piano Adventures」が、1980年代にフェイバー夫妻によって作られました。
21世紀に入ると、従来の教材に加えて、Simply PianoやFlowkeyといったAIを活用したオンライン学習ツールが普及し、ピアノ教育はデジタル化と多様化が進んでいます。
こうした歴史を経て、アメリカのピアノ教育は、伝統的なクラシック学習から、より個々の学習スタイルに対応した柔軟なアプローチへと進化してきました。
日本のスズキメソッドがアメリカに導入されたことからも、アメリカのピアノ教育の柔軟性がうかがえます。伝統を大切にしながらも、新しいアプローチを積極的に取り入れ、発展を続けてきたことがお伝えできれば幸いです。
米国ピアノ指導者団体
ACM日本支部
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