ギルド試験という体験が子どもたちに教えてくれること― 通じない言葉の中で、通じ合う体験を ―
- ACM日本支部
- 3月22日
- 読了時間: 4分

子どもの心が育っていく中で「心が動く体験」はとても大切なものです。それは、いつまでも胸に残っているようなできごとだったり、「ああ、うれしいな」と心がぽかぽかした瞬間だったり、なんだかうまく言葉にはできないけど、心の奥がふるえたような気持ちだったり…。そんなひとつひとつの経験が、子どもの心を少しずつ大きく、やさしく育てていきます。
「感動」とは、心が揺さぶられるような経験や出来事のことであり、それは日常の中の小さな成功体験から、芸術や自然、他者との深いつながりまで、さまざまな形で訪れますよね。
たとえば、初めてのピアノ発表会で大きな拍手をもらったとき。緊張しながらも一生けんめい弾いた曲に、会場から温かい拍手が響いたその瞬間、子どもの心の中には「うれしい」「また弾いてみたいな」という気持ちがふわっと芽生えます。そのあとに「よくがんばったね」「あなたの音、すてきだったよ」とやさしい声をかけてもらえると、子どもは安心し、自分を認めてもらえたことに大きな喜びを感じますよね。
このように、音楽を通して感じる喜びや達成感は、子どもにとって大きな自信となり、「自分にもできることがあるんだ」という思いにつながっていきます。そしてこれは、音楽教育に限らず、どんな体験にもあてはまることです。子どもが何かに夢中になって取り組み、小さな成功を重ねる中で、まわりの人から「よくがんばったね」「あなたらしくてすてきだったよ」とあたたかい言葉をかけてもらえると、心の中に安心感と自己肯定感が育っていきます。
そうした経験の積み重ねが、子どもの心を少しずつ育て、前向きにがんばる力を育んでくれると思っています。
いろいろな経験を通して、子どもたちは少しずつ、まわりの人の気持ちを感じ取る力も育てていきます。
たとえば、絵本や映画の登場人物に心を動かされたり、誰かが一生けんめいがんばっている姿を見て思わず涙がこぼれたり…。そんなふうに、「自分とはちがう誰かの気持ち」にそっと心を寄せることができるようになっていきます。この共感する力は、友だちとの関わりや、これから広がっていく社会の中で、あたたかな人間関係を築いていくための大切な土台となっていくのではないでしょうか?
さて、言葉が通じない国際交流のような場面は、子どもにとって強く心に残る、かけがえのない体験のひとつです。たとえ言葉がうまく伝わらなくても、笑顔やしぐさ、そして音楽や遊びを通して、気持ちが通じ合ったとき、子どもたちは「言葉だけがすべてではないんだ」と、体を通して感じとります。音楽には、言葉の壁を越えて人と人とをつなぐ力があります。
アメリカのギルド・ピアノ検定試験では、試験のときに通訳はつきません。それは、特に日本に住んでいて、外国を少し遠く感じている子どもたちにも、たとえ話す言葉や暮らしている環境がちがっていても、世界中の子どもたちが、それぞれの場所でピアノに向き合い、自分の音をたいせつに育てながら、一歩ずつ成長していることを感じてほしいからです。
言葉が通じなくても、音楽を通して心はつながる――そんな体験を、子どもたちに届けたいという思いがこの試験には込められています。
言葉が通じないと不安になる――その気持ちに年齢は関係ありません。子どもでも、大人でも、知らない言葉に囲まれる場面では、心細さや緊張を感じるものです。
でも、そんな中で音楽を通じて気持ちが通じ合ったときの「うれしい」「伝わった」という体験は、まさに心が動く瞬間です。
音楽、表情、雰囲気を通して生まれる小さなコミュニケーションは、子どもたちの中に安心や喜び、そして「わかり合えるんだ」という自信を芽生えさせてくれます。そのとき得た実感は、子どもたちが社会の中で他者と関わる際のひとつの経験値となります。
米国ピアノ指導者団体 ACM日本支部は、音楽を通じて生まれる国境を越えたつながりが、子どもたちにとって大きな学びと成長のきっかけになると信じています。
私たちが目指しているのは、ピアノの指導者団体として、音楽を通して、子どもたちが言葉や育った環境のちがう相手と自然に出会い、交流できる場をつくることも含まれています。
音楽には、国や言葉の壁を越えて、人と人の心をつなぐ力があります。実際に海外での生活や指導の中で、その力を実感してきたピアノ指導者がACM日本支部には多くいます。だからこそ、ギルド試験のような経験を通じて、子どもたちにもその可能性を感じてほしいと願っています。
こうした体験の積み重ねは、子どもたちが多様性を自然に受け入れ、広い視野を持ちながら、将来、自分らしい形で世界と関わっていく力を育ててくれるはずです。
子どもたちが音楽を通じて得たつながりや気づきが、これから歩んでいく世界の中で、きっと大きな力となってくれることを、私たちは信じています⭐︎
Comments