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学びは、らせんのように──アメリカのスパイラル学習とギルド試験が育む音楽の成長




「どうすれば、ほんとうの意味で“できるようになる”のか?」これは、教育に関わるすべての人が、何度でも立ち返る問いかもしれません。


アメリカの教育には、その答えのヒントとなる「スパイラル学習(spiral learning)」という考え方があります。これは、一度で終わるのではなく、時間をかけて繰り返し向き合うことで、理解や技術を段階的に深めていく学びのスタイルです。同じテーマでも年齢や経験に応じて内容が発展し、やがて思考力や応用力を求められるようになります。大切なのは、完璧を目指すのではなく、過程の中で少しずつ力を育てていくこと。その積み重ねが、確かな自信と実力につながっていきます。


たとえばピアノ教育においても、スケールやコード、リズム、表現といった要素は、単発の学びでは定着しません。繰り返し出会い直しながら、少しずつ精度と意味を深めていくことで、演奏に自然な広がりが生まれます。


こうした考え方は、アメリカのピアノ検定「ギルド試験(米国ギルド・ピアノ検定)」にも色濃く表れています。ギルド試験は、日本のように「◯級に合格する」形式ではなく、毎年の挑戦を通して、自分のペースで成長を記録していくスタイルの試験です。最初のエントリーレベルからアーティストレベルまで、共通の評価項目に基づいて審査され、演奏の自由度も高く、年齢や経験に応じた演奏が尊重されます。


同じ技術でも、演奏者の成熟度によって評価の視点は異なります。審査員は一人ひとりの歩みに寄り添い、演奏ににじむ“成長の響き”を、音楽的なまなざしで丁寧に受けとめてくれます。これは、個々の多様性を大切にするアメリカの教育文化の中で、自然に根づいてきた審査スタイルとも言えるでしょう。


ギルド試験に取り組むこと自体が、スパイラル構造の中での音楽的成長を体現する経験となります。毎年の挑戦は、前回の学びの上に積み重なり、より高い理解や豊かな表現力へとつながっていきます。


だからこそ、「選曲や審査がわかりにくい」「難しい」と感じる声があるのも自然です。この試験は、“その時点での完成度”よりも、“今どこにいて、どこへ向かっているのか”という成長のプロセスそのものを評価する、個別性の高い仕組みだからです。


また、ギルド試験で必修とされるIMMT(スケールとカデンツの技術演奏)にも、スパイラル型の考え方が表れています。内容は段階的に高度になり、それにあわせて技術・音楽性・創造性も順を追って育まれていきます。


指導者には、ただ課題をこなすのではなく、生徒一人ひとりの成長の軌跡を読み取り、次の一歩へとつなげる指導が求められます。前年の演奏やフィードバックをふまえ、今年はどの力を育てたいか、どう表現へ導いていくか・・・その積み重ねが、ギルド試験を通じた“音楽の旅”を豊かに実らせていくのです。


このように、学びを重ねながら深めていくスタイルは、バランスの取れた音楽的成長を支える非常に有効な方法であると、ACM米国本部も位置づけています。そもそもこの形が意図的に設計されたものなのか、それとも長年の実践の中から自然に形づくられてきたのかは明確ではありません。


しかし、アメリカの教育者たちは、多様な価値観の中で「結果」よりも「過程」を重視し、それぞれのペースや背景を尊重しながら学びを育ててきました。スパイラル学習は、その文化の中で自然に根づき、今も実践の中で息づいています。


音楽教育におけるギルド試験は、その哲学を体現する舞台です。演奏者は、毎年の挑戦を通じて自分自身の音楽と向き合い、自分の「今」を響かせながら、次の学びへと歩みをつなげていきます。


そして改めて、こう言えるのかもしれません。「どうすれば、ほんとうの意味で“できるようになる”のか?」・・・その答えは、時間をかけて繰り返し学び、深め、広げていく“らせんのような歩み”の中にあるのだと。ギルド試験は、そんな学びの旅に寄り添い、音楽とともに歩み続ける人々を、これからも支えていきます。



 
 
 

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