

ACM日本支部
~パンデミックの経験~
そしてこれから
ギルド試験、日本での始まり
2015年、今から約10年前にACM日本支部が発足しました。
きっかけは、アメリカで長年ピアノ指導に携わってきた指導者が日本に帰国し、
都内のインターナショナルスクールで高校生たちを教える中で生まれたひとつの想いでした。
「この子たちに、アメリカの『あの感じ』『あの評価』『あの雰囲気』を
日本でも体験させてあげられないだろうか?」
こうした願いから、米国ギルド・ピアノ検定試験の日本開催への動きが始まりました。
このアメリカの『あの感じ』『あの評価』『あの雰囲気』という表現に、
馴染みがない方もいらっしゃるかもしれません。
では、なぜアメリカの『あの感じ』『あの評価』『あの雰囲気』が必要だと感じたのでしょうか?
その背景には、音楽教育の中で得られる独特の経験や、
アメリカならではの評価基準が持つ価値が関係しています。
そしてアメリカで多くの生徒を指導してきた指導者は、現地で自身の経験を通じて、
いつの間にか「生徒が進学時に直面する課題」に詳しくなっていきました。
日本で改めてピアノを教え始めた際、
指導者たちは日本の公教育が2020年に向けて変わっていることを、
日々のレッスンを通じて肌で感じていました。
そして、その変化が生徒たちにどのような影響を与えるのかを考える中で、
日本でギルド試験を開催する必要性が次第に明確になっていったタイミングでもありました。
<アメリカのピアノ指導者が生徒さんと歩む一年の一般的なスケジュールはこちら>
日頃から生徒さんの日常を支え、
進学やその先の未来に向けた準備を手助けしてきたACM日本支部初期の指導者たちは、
ピアノや音楽教育が生徒にとって大きな支えとなり、
将来の選択肢を広げる力があることを深く理解していました。
その思いからACM米国本部に連絡を取り、日本でのギルド試験開催が実現しました。
最初の開催は決して簡単ではありませんでしたが、
諦めることなくアメリカ本部と何度も話し合いを重ねた結果、
ついに念願だった日本初のギルド試験を開催することができたのです。
最初の一歩
第1回目のギルド試験は、少し緊張感のある中で幕を開けました。
長年アメリカで指導をしてきた先生たちは、現地で培った教育の良し悪しを肌で感じており、
その経験をもとに日本で新たな学びの機会を作りたいという思いを抱いていました。
しかし、それには期待だけでなく、不安も伴いました。
それでも、自分たちの経験を信じ、
生徒たちが挑戦する気持ちを大切にしながら、準備を進めていきました。
米国本部から副会長が来日し、いよいよ審査が始まりました。
少し忘れていたアメリカの『あの感じ』『あの評価』『あの雰囲気』が会場に蘇り、
緊張感の中にも新たな希望が感じられる空間が広がっていました。
試験が終わると、参加した生徒やご家族から感動の声が届きました。
「こういうの待っていました!」
「こんなに細かく審査してもらったのは初めてです!」
「アメリカに行かなくても、全く同じ評価が得られるなんて!」
その翌年、ギルド試験で得た評価をもとにアメリカへ進学する生徒たちが現れ、
試験は単なる評価の場にとどまらず、生徒たちの未来への架け橋となり始めたのです。
2020年、試練の年
2020年、春の試験を控えたある日、
アメリカ本部から連絡が入りました。
「中国で感染症が拡大している影響で、審査員を日本に派遣できません。」
それは突然の知らせでした。
しかし、日本での感染が広がるにつれ、
アメリカでも感染拡大が猛威を振るい、審査員が安全に渡航できる状況ではなくなり、
来日の中止が現実味を帯びてきました。
「こんなことは初めてで、どうしていいのかわからない。でも、生徒たちは一生懸命練習して、演奏の準備を整えてきた。このまま試験を中止にして、演奏できないのは・・・。」
試行錯誤を重ね、これまで病欠対応として行っていた録画審査を本格的に導入する決断をしました。
こうして新たな形式での試験が始まり、
生徒たちの努力が無駄にならないよう支えるための第一歩が踏み出されたのです。
録画審査の力
パンデミックが世界を包む中、学校も部活動も止まり、
日々の生活が制限される中で、変わらず続けられるものがピアノだという子たちもいました。
「目標があるからがんばれる」「何もできない中で、ピアノが支えになった」――
生徒たちから届くそんな声に、指導者たちは「続けていてよかった」と心から思いました。
ギルド試験は、細やかな規定と柔軟な対応を兼ね備え、
どんな困難な状況下でも生徒たちの努力を支えます。
特に録画審査が生み出した新たな価値は、
ギルド試験が持つ可能性と、未来への希望を改めて示してくれました。
未来に向けて
日本支部が発足してから10年。
あの2020年のパンデミックから、幾度かの季節が巡りました。
社会が大きく変わる中で、
ピアノ教育を取り巻く環境も少しずつ形を変えてきました。
けれど、指導者たちの思いは変わりません。
「生徒たちに寄り添い、音楽を通じてその未来を支え続けたい。」
ギルド試験は、音楽を愛するすべての生徒たちに寄り添い、
夢を奏でるその手を後押しする存在であり続けます。
どんな時代でも、音楽が持つ力を信じて、
未来へ向かって歩み続けていきます。